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風に吹かれて(10-9)      白井啓治  (2010.9)

      

『熱波に枯れた雑草の抜いておる瘦せ男』

 

記録的な猛暑日の続いた夏であった。暦の上ではもう秋なのであるが、蟋蟀は鳴けど、熱帯夜はまだまだ続いている。記録を何処まで伸ばすのやら。

例年であれば、この暑いのに雑草の奴は元気だな、と庭を侵略してくる雑草を引き抜くのに大汗をしている筈であった。しかし、この夏は少し様子が違っている。庭に小さな家庭菜園を作っており、今年は茄子とオクラを育てているのであるが、あまりの暑さなので、全体に散水する方法から、根本に細い穴をあけて、そこから水を流し込み根に直接水を供給する方法にしてみたのである。そうしたら、茄子とオクラは元気に生き生き。雑草達は熱波に打たれて枯れてきたのである。雑草が枯れてくると藪蚊の発生も少なく、実に有難い現象が起きたのである。特に我家のお猫様、耳ちゃんはクーラーが嫌いなので、暑いさなか殆どつけないでいるものだから、蚊の奴ら汗の臭いを嗅ぎ付けて隙間をさがし家の中に入り込み、この瘦せ男から血を盗むのである。その蚊がこの夏はいない、少ないのである。  

根本に直接給水する方法が功を奏したのか、オクラの成長が実に見事であった。一日に3センチ近くも成長するのである。朝、あと二日ぐらいかなと思っていたものが、夕方にはもう食べごろに近いオクラに成長しているのである。これには驚いた。しかし、熱波の所為なのだろう花の寿命が短く儚いものになってしまった。朝顔ほどでもないが、昼間の熱波に撃ち殺されてしまった。  

猛暑、酷暑の真っただ中のお盆休み。小生はクーラー嫌いのお猫様「耳ちゃん」の仰せの通りクーラーもつけないで、パソコンがパンクするのではないかと思う程の暑い部屋の中で、ことば座11月公演の台本を書きあげた。「難台山城落城哀歌」である。

岩間の伝え話にある「難台山の赤いススキ」と打田兄の調べてくれた岩間・押辺の地名の由来となる「子忍の森」をモチーフに、奥方としか伝えられていない小田五郎藤綱の妻を主人公にした恋物語である。

物語のプロローグには、方丈記の(一)と(三)を引用してみた。はじめは、平家物語を引用してみようと思ったのであったが、藤綱の何故今さら南朝に加担したのかを考える時、方丈記の三の「すべて、世の中ありにくく、我が身と栖との、はかなく、あだなるさま、また、かくのごとし。いはむや、所により、身のほどにしたがひつつ、心を悩ます事は、あげて計ふべからず」が思われてしまったので、咄嗟に方丈記を引用することに決めたのであった。同時に、この方丈記を小林幸枝に仕舞のように手話の舞いをイメージさせてみたら面白いものになると思ったのであった。

小林幸枝の圧倒するスケール感で、方丈記を手話による仕舞に舞えたら、世界の舞台に立っても全く引けを取らないであろう。